中学受験家庭教師の国語メインブログ

23区西部在住の家庭教師が日々思うことを書いていきます。

「家族シアター」

辻村深月作の短編集。

 

総じて、どの話も一定以上楽しめましたし、

一部の作品では特に、著者の実力を感じる一冊でした。

 

ちなみに、登場人物は「いがみあっている」に近いような

表面的にはあまりうまくいっていない関係がわりと多いです。

 

 

まず、単行本収録順ではないですが

 

姉妹の物語である「1992年の秋空」は

2016年の麻布で出題されたほか、

2021吉祥女子、2019頌栄、2017慶應湘南藤沢など、多数出題。

 

確認できた範囲で、

かなり長い部分を出題しているのは湘南藤沢ですね。

実質読解問題は一題だからかもしれません。

(こういう言い方をするのはなんですが、

 問題としては特筆すべき内容というわけではないです)

 

 

さて、改めて読み直して意外だったのは、麻布の問題。

 

一般的に、普通の学校の国語入試問題では原文をそのまま使い、

飛ばすところは「中略」と表記していることが多いです。

 

ところが麻布の問題は、

 

・飛ばした部分に「中略」の表記なし

(それでも、それなりに支障なく読めるように意識していると思われる)

 

・いわゆる「中略」部分のみならず、結構加工が施されている

(解答に不要と判断した部分をところどころカットしている)

 

例えば、この話は姉妹の物語で、

妹にケガをさせる一因となった自分の行動を姉は悔やんでいますが、

 

この問題文ではただ

 

「妹の逆上がりの練習に付き合う約束をしていたが、

友達を優先し、行かなかった」

としか描写されていません。

 

もちろんこれだけでもこの年の麻布の問題は十分解けると思います。

 

 

しかし個人的には、

 

「姉が帰宅した際、なぜこんなにも家人に厳しい態度を取られ、

かつ本人も責任を感じているのか」

 

について、僅かですが違和感を持ち続けていました。

 

 

この点、原文では、

 

姉は前日に「助走して勢いをつけると回りやすくなる」

というアドバイスをして実践してみせ、

妹のほうも一度試してみて、

成功はしなかったもののいい手ごたえを得ている旨が描写されています。

 

そういうことなら罪悪感が強いのも理解しやすくなりますね。

 

麻布の先生は、字数の関係か、読解力を試すためか、

何かの意図をもって

あえて詳しい描写は省いたということになります。

 

個人的にはすっきりすることができましたが、

こうして対照してみるのもなかなか興味深いところです。

 

それから、「1992年の秋空」というタイトルにもについても、

個人的になんでだろうと考えていましたが、

後年の描写などはなし。「そういう小6の秋だった」で終わり。

 

おそらく、著者の辻村さんが、

実際に本作姉と同じ6年生だった時期が1992年である、

宇宙好きという妹の設定から毛利さんも関連させて、

といったあたりが理由なのでしょう。

 

「うみかが私の腕をすっと掴んだ。

(略)無性に、この子は私の妹だ、と思った。(略)

 無条件に私の腕を頼っていいのは、この地球上で、この子だけだ。」

 

いいですね。

この単行本では兄弟姉妹が分かり合うシーンも多いのですが、

 

今回は、終盤の姉妹のやりとりについても

比較的自然に受け入れることができました。

 

近年の麻布の問題の中でも比較的好きな作品です。

(だからわざわざ読んでいるわけですが)

 

 

・「「妹」という祝福」

 

スクールカースト的な内容が結構含まれていたり、

やはり姉妹の情も描かれておりそれには確かに納得、

なかなか面白いのですが、

 

「当時の姉が妹に対して持っていた感情」がちょっと唐突というか、

個人的にはいまいちしっくりこなかったかなという気もします。

 

そういう伏線もあったでしょ、そういうことなんですよ、

と言われれば、まあそれはそうですね、という感じなのですが。

 

・「サイリウム

 

これは姉弟ものです。

アイドルのコンサートが結構描かれており、

そういうものかと楽しんで読めました。

 

姉と弟の交流については、

はっきりすべて書くというよりは余韻を持たせているし、

お互い成人しているような年代なので、

個人的には比較的さらっと読んだかなという感じ。

 

 

・「私のディアマンテ」

 

これは母娘もの。

 

サイリウム」もまず中学入試には出ないと思うけど、

これはもっと出ないですね。

 

これでもかというほど感性が合わない親子だが、

通じ合う部分もある、というお話でしょうか。

 

・「タイムカプセルの八年」

 

父子関係がテーマで、子供の夢を壊さないために親父達が奮闘する話。

 

結構、中学受験王道の作品といえますので、

2020に関西の四天王寺中で出題されたみたいですね。

他にも出たのかどうかはよくわかりません。

 

なかなかいい話ですし、

よくこういう物語を考え付いたなということで、

人気作家の実力を感じました。

 

高校生の息子がどうして小6当時の担任に疑念を抱いたか、

という点は気になったのですが、やはり一から十までの説明はありません。

 

さらっと後半で触れられているので、そこから推測する感じです。

(作者はミステリー好きのようなので、

他にもそうした要素が見受けられる作品はあるように思いました)

 

この点、中学入試で万一出されたとすれば、かなりの難問。

さすがに出ないのではないかと思いますが・・・

 

・「孫と誕生日会」

 

この作品は祖父と孫娘のお話。

 

世代間ギャップなどもあり微妙にかみ合わない二人ですが、

少しずつ距離が縮まっていきます。

 

ネタばれ回避の意図もあり簡単に書いていますが、

これもなかなかいいです。

 

・「タマシイム・マシンの永遠」

 

家族シアターは短編集ですが、

その中でもかなりの短編。

 

著者はドラえもんが好きらしく、

それにちなんで家族の引き継がれる交流を描いています。

 

小品ですがかなり気に入ったという人もいるかもしれませんね。