中学受験家庭教師の国語メインブログ

23区西部在住の家庭教師が日々思うことを書いていきます。

「四十一番の少年」

井上ひさし

 

表題作である「四十一番の少年」「汚点(しみ)」「あくる朝の蝉」の

3作品が収録されています。

 

3作品にはいずれも孤児院(作中表現による)が登場し

(作者の体験に基づいているとのこと)、

それぞれ哀切に満ちた作品となっています。

 

以下、あまりネタバレにならない程度の感想など。

 

・「四十一番の少年」

 

100Pを超えており、他の二編と比べ長め。

孤児院に入所した主人公の経験した恐ろしい日常を描き出す作品。

後半で少年としりとりをするシーンはとても切なかった。

 

※四十一番というのは孤児院で各自がつけられる

(洗濯物に記載するための)番号のこと。

 

・「汚点(しみ)」

 

離れた兄弟からの葉書の変化が作中で重要な役割を果たしている点は、

向田邦子の有名作である「字のない葉書」を連想させる。

 

過去問で見たかは定かではないものの、

某問題集には収録されており、あまりに設定が似ているので、

「あくる朝の蝉」の前日譚かと勝手に思っていたが、どうやら違うようだ。

 

兄弟の絆が大きなテーマであるが、

孤児院で受ける理不尽な暴力は表題作と同じくこの作品でも描かれる。

 

やはり全体的に明るい話のほとんどない物語となってはいるものの

一瞬だけマドンナ的女子が登場しており、

 

「つまり、彼女は家庭的な雰囲気をもっていて、

 孤児好みの子だったわけだ」

 

という一節には納得させられるものがあった。

 

 

・「あくる朝の蝉」

 

麻布中2011、駒場東邦(1995年との情報あり)

や武蔵(2016だったはず)などで出題。

 

※麻布中2011で出題されていることは

一応出典一覧でもまとめています。

 

waldstein1804.hatenablog.com

 

夏休み、孤児院を抜けだし祖母の家にやってきた兄弟。

ところが以前とは様子が異なっているようで・・・という短編。

 

以下引用(一部略)

 

「・・・ぼくたちは孤児院に慣れてるけど、

 ばっちゃは養老院は初めてだよね」

 

「そんなら慣れてる方が孤児院に戻った方がいいよ」

 

「そうだな」

「他に行くあてがないとわかれば、あそこはいいところなんだ」

 

 

 

表題にもなっている「蝉」と

作中に登場する「蛍」が重要なメタファーとなっています。

 

そもそも、メタファーが二つ出てくるという出題文自体、

かなり珍しいような気がしますが、

 

この作品はこれだけの短編(文庫で30p)にも関わらず二つ。

とても見事だと思います。

 

理想的なメタファーなので、当然問題にもなっていますが、

特に、蝉について現場でよく理解できた受験生はいたでしょうか。

 

本当によく理解できた人の中には

もしかすると涙を押さえるのが大変だった、

という人もいたかもしれません。

 

いや、いてほしい。

 

一人くらいは、多分、いたよね?

 

 

昔の出題となりますが、筆が乗ったのでつい書いてしまうと、

 

麻布1994(白い貝がら)で

純粋さ・清らかさのメタファーとなっていた「貝がら」。

 

作中の出来事によって大人の汚い一面を思い知った主人公は

「この貝がらは、もう自分にはふさわしくない」と判断し、

海に投げてしまうというラストシーンとなっています。

 

当時も解いていて非常に共感した素晴らしい名作でした。

 

そのような感動を読み解き、

味わってくれた受験生がいたとすれば嬉しい限りです。

 

さて、

「あくる朝の蝉」が素晴らしい名作であるということは置いておき、

出題文かぶりの話をしますと、

 

入試で出題文が重なることはままありますが、

 

出題箇所が異なっていたり、

同じ個所が選ばれていても、

出題形式や難易度の違いなどから、

設問が大きく異なっていることもわりと多いです。

(そのため、文章をどこかで見たことがあっても

 それほどは有利にならなかったりする)

 

※比較的最近だと

「リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ」は

同じようなところがやたら出た印象もありますが、

それらの出題は主に同一年度でしたので、

影響はそれほどなかったのかもしれません。

 

waldstein1804.hatenablog.com

 

ところが、

「あくる朝の蝉」は文庫で30pほどしかない短編であることもあって、

 

2011麻布・2016武蔵においては、

出題箇所のみならず設問までもがかなり類似していました。

 

麻布の問題を見たことがあった、

という武蔵受験生も結構いそうな感じしますが、

どうだったのでしょうね。