中学受験家庭教師の国語メインブログ

23区西部在住の家庭教師が日々思うことを書いていきます。

「ぼくたちはきっとすごい大人になる」

 

有吉玉青 著。

 

武蔵中 2010で表題作

「ぼくたちはきっとすごい大人になる」

 

に触れて印象に残ったので一冊通読。

 

waldstein1804.hatenablog.com

 

どの作品もよくある切り口とは一味違ったものになっているので、

とても楽しめました。

 

典型的な物語文の展開ではないと思いますので、

視野を広げるための読書として、読書好きな小学生にお勧めです。

 

 

以下、各作品の冒頭1行は文庫裏表紙の紹介コメントです。

(あまりあらすじを紹介するのもどうなのかということで。

そうはいいつつ、その後ある程度触れてしまっているかもしれませんが)

 

 

「イン・ザ・ベイスメント」

 

大きらいな幼なじみに、なぜだかときめくカンナ。

 

 

 

そういう展開は全然予想していなかったので、

そう来たかという感じでした。

 

地下室でのシーンがあるので、

入試にはちょっと出しにくいでしょうか。

 

 

「悪い友だち」

 

教室で浮いた存在の不良にあこがれる和馬。

 

 

 

 

この主人公はクラスの優等生に結構な反感を抱いていますが、

よくある入試物語文と違って、

最後は優等生と和解するとかそういうのはないんですね。

 

最後までそのスタンスは貫くが、同時に自分の限界も知る。

そういう形の成長ですか、なるほど。

 

 

この話を読んでいて

 

 

遠藤周作「海と毒薬」を思い出しました。

 

「大人が喜ぶ作文の書き方」

(大人受けする優等生的な内容を書くのだが、

わざとらしくならないよう「子供らしい本音」も創作し、混ぜておく)

 

を熟知し、いつも褒められ、得意になっている主人公が

(田舎の学校だが、主人公は転校生)

 

「新たな転校生にそのあざとさを見抜かれている」と察知し、

後ろめたい気持ちになる場面です。

 

 

 

「一心同体」

 

親友の家庭事情を知った千里。

 

 

他人ではどうすることもできない事情や壁も存在するというお話。

 

家庭事情というのは終盤まで伏せられていますが、

家族の障害なのですね。

(途中にさりげない伏線はあるのでだいたい想像はつきますが)

 

「安易な同情は失礼になる」パターンですが、

これは小学生にはなかなか難易度が高いです。

 

今年でいえば「朔と新」にも少しありましたし、

塾の一部テキストでも触れられていたりします。

 

また、

 

「風が吹いて桜が散り、綾香と私の間に、薄紅色の幕を張った」

 

というラストについては綺麗な情景描写だと思いました。

そのまま問題にすることもできそうですが、わかりやすいかな。

 

 

「(ト音記号)シュルッセル」

※()部分には本当は記号があります。

 

音楽教師に心を寄せる哲平。

 

 

自分の望みがかなうことで

皮肉にも望まない結末を招くことになってしまうのですが、

 

ラスト、

(返事までのわずかな間から)

「先生は、ぼくの声をすぐに忘れると、ぼくは確信した」

 

という甘くない終わらせ方はいいですね。

 

 

声変わりに絶望を感じる心境(高い声で歌えなくなる)には

個人的に共感しましたが、

 

まあ大半の男子にとってはどうでもいいことでしょうね。。

 

 

「ママンの恋人」

 

母の愛人に恋する愛(アモ)。

 

 

 

 

自分にとって何が大切だったのか、真の価値に気付くお話。

 

設定からして入試に出題されることはなさそうですが、

ハイライトのシーンなどは出題しても面白いと思います。

 

面白いだけで、いい問題にはならないかもしれませんが・・・

 

 

 

「ぼくたちはきっとすごい大人になる」

 

クラスメートの死を受け止める三人の男の子。

 

 

上記の記事で少しだけ触れている、

死について色々と考えるシーンの他にも

 

大人のだらしなさについてのエピソードが入っています。

 

それもふまえてタイトルに繋がるわけですが、

失礼ながら、そちらはやや蛇足気味かなという感じはしました。

 

 

やはり珠玉は武蔵の入試でも出題されている場面でしょう。

 

地味に、

若い教師が主人公の成績不振の理由を勝手に決めつけてくるくだりも

なかなか素晴らしいです。

 

意外と出題されていませんが、

個人的にはもっと出して欲しいなと思っています。

 

キリスト教絡みだと出しにくいとか、

校風が自由でないとこういう文章は・・・

 

というところなのかもしれませんが。

 

ちなみに、現在(※2021年当時に確認)

の予習シリーズ6年上には載っています。

 

 

他の出題校としては

 

東京家政学院中 2016

「シュルッセル」

 

・成蹊中 2015 

「ぼくたちはきっとすごい大人になる」

 

東洋英和女学院中学部 2014

「シュルッセル」

 

東邦大東邦中 2010

「悪い友だち」

 

となっています。